いつだったか、あるラジオ番組に物理学者さんが出演していた。
それは教養番組ではなく、それなりに社会的な地位を有する男性パーソナリティと、女性の局アナという、ごく一般的な組み合わせで、庶民の日常を面白おかしく紹介する、一般の視聴者向けに放送されている番組だった。
私は途中から聞いたので、その物理学者さんが何故出演されていたのかは知らないが、なかなか物理学者さんの生の声を聞くことはできないので、良い機会だと思い興味深々で耳を傾けていた。
そして話は宇宙の話題に及び、物理学の教養が全く無い男性パーソナリティから、一般の視聴者を代表して、素朴な質問が次々と繰り出される。
その物理学者さんからは、その都度「んー」という行間を置いて、ビックバンから始まり、ゆらぎがとうの、時空がどうのと、歯切れ悪く一通りの回答がなされた。
そのパーソナリティは、「そうなんですかー」と、半ば理解することを諦めるように笑いながら相づちをうち、「結局、私たちにはよくわからないということですね」という結論で締め括られた。
その物理学者さんの「んー」という最初の行は、「基礎知識がないと分かりづらいと思いますが」という前置きだったと想像する。
そして、歯切れの悪さから、本当にそうなんだと確信して発言されているようには見受けられなかった。
本当にそうかどうかは分からない。
自分で確かめた訳じゃないから。
でも、今の定説はこうなっている。
少なくとも、私はそう教えられてきた。
といったところではないかと、勝手に想像する。
「なるほど!」と唸らせてほしいという私の期待は、またしても裏切られることとなった。
「あなたたちには理解できないかも知れないけど」そんな前置きが、いつも聞こえるような気がしてならない。
物理学は、もうとっくに、私たち一般庶民の手の届かないところに行ってしまったのだ。
でも、一般庶民さえ納得させることができない学問とは、一体何なんだろうか。
それって、結局何も解明していないのと何が違うのだろうか。
そろそろ、物理学を考える学問ができるかもしれない。